猫になったジャスティス
……いつのまに四足歩行になってしまったのだろう。そうだ、これはきっとあいつのせいに違いない。
毛むくじゃらの身体になって、猫科特有の肉球がその手についているのが見える。
さっきから目の前にいる彼女に何度も話しかけているのだが、てんで通じない。ただ「にゃーにゃー」叫ぶしかできない。
僕、ジャスティスのいつもと変わらぬ朝。
いや、ちょっぴり違う朝。
今日は彼女である佐々木まき絵ちゃんとデートの約束をしていた日なのだ。
バレンタインデー以来、親交を深めてきて最近はかなりいいカンジである。周りにはバカップルとまで呼ばれてしまっているほどだ。
大好きな彼女のために遅刻しないよう早起きして。さっさと準備を終えて待ち合わせ場所へと急ぐ。
さすがに彼女はまだ着ていなかった。待ち合わせ時間まではまだまだ余裕がある。それに、女の子だもの。何かと時間がかかってしまうのだろう。
ワクワクとはやる気持ちを抑えつつ、僕は今日過ごすはずであるまき絵ちゃんとの楽しい1日を想像する。
まず、この辺りの丘を歩き回って綺麗な桜で一緒にお花見。夜まで楽しく過ごして劫火ディナー。そしてその後は……
おっと、ダメダメ。彼女はまだ中学生なんだった。あくまで節度を守ってね。
でも、なんだか想像してしまう。まき絵ちゃんの恥ずかしそうな赤い顔。お互いの息がかかるほど近い距離で見つめ合って、そしてその柔らかい唇に……
その果てには、柔らかいベッドの中で『優しくしてね』なんて潤んだ瞳をして……
(バカバカ、なに考えてんだーー!)
頭を振って想像というか、妄想を断ち切ろうとする。
「よし、キミに決めた!」
「へ?」
突然、僕の肩にその人物の手が乗せられた。
「『すーぱーぎんぎんくんZ』。コレを飲めば、あなたの精は元気イッパイハツラツよ。彼女も喜ぶ逸品。今ならただでお試しいただけます♪」
「はぁ?」
目の前の人物は帽子にサングラス、ベージュのコートに身を包んだ以下にも怪しい人物。
「あなた、彼女とデートするんでしょ? だったらコレを飲んだらもうウハウハの夜を過ごせること間違いナシ♪」
「いや、いいです、結構です」
どうやら割合若い女性のようだが。もちろん当然断る。こんな見るからに怪しいシロモノ、なにが起きるか分かったもんじゃない。
「いりません。あっちへ行ってください、しっしっ」
「キミに決めたと言ったの。無理矢理にでも飲ませちゃう♪」
「え?」
そこで僕のの意識が飛んだ。
いや、飛ぶ前にかすかに聞いたような気がする。
「ありゃ。これ、『ぎんぎんくん』じゃなくて『ネコトキシン380(みやーお)』じゃん。千影か鈴凛か、さてまた四葉辺りの仕業ね、こりゃ。ま、いっか。これでも面白そうだし♪」
そうこうしているうちに、彼女がきてしまった。
「ジャスティスさんは……まだだね。ちょっと早かったかな」
まき絵ちゃん、僕はもうここにいるよ。
「にゃーみゃあー」
「あはっ、カワイイ♪ おいでー」
優しいまき絵ちゃん。猫の姿になってしまったジャスティスの頭を「よしよし」と優しく撫でる。
「それにしても遅いなぁ、ジャスティスさん。時間は守る人なのに。何かあったのかなぁ?」
心配そうな表情を浮かべるまき絵ちゃん。そんな彼女を見ていると、心が痛む。
約束の時間からすでに2時間。何度か携帯電話で連絡を取ろうとするまき絵ちゃん。しかし、繋がらないらしく、ますます心配そうな表情になる。
ジャスティスが目を覚ますと、すでに携帯電話やその他の荷物、そして着ていた衣服もなくなっていた。おそらく彼に薬を盛ったあの女が持ち去ったのであろう。
「はぁ~。どうしちゃったんだろう。事故にでも巻き込まれちゃったのかなぁ」
まき絵ちゃん、泣かないで。僕はここにいるよ。
そのとき身体に感じる冷たい刺激。
「あ、雨」
ぽつぽつと降ってきて、やがてざあざあと激しくなってくる。
「うそ~。今日天気いいって言ってたのに」
あっという間にずぶ濡れになっていくまき絵ちゃん。そして猫になったジャスティス。このままじゃ風邪を引いてしまう。
「あらあら、こんなところでどうしたんですかまき絵さん」
「あ、彩音ちゃん」
佐々木彩音ちゃんだ。水色の髪とツリ目がチャームポイントな女の子。お願い、僕のことに気づいて~。
「ジャスティスさんから言伝です。急に大事な用ができてこられなくなったとあなたに伝えてほしいって」
「え、そうなの? でも携帯では……」
「どうやら調子がよくなかったようで。まき絵さんにごめんなさい、と」
「そうだったんだ。ありがとう、彩音ちゃん」
そんな、どうして彩音ちゃんがそんなことを? 僕はそんなことひとことも……
あ、彩音ちゃんの口元がニヤリとつりあがった! あの子はそんな評定するような性格じゃないはずなのに。きっと目の前の“彩音ちゃん”はニセモノなんだ。あ、こっち向いて舌出してウインクなんてしているし!
「そっか。それじゃあ仕方ないか。帰ろうっと。あ……」
歩き出そうとしたまき絵ちゃんが僕の方を振り返ります。
「君もずぶ濡れだね。一緒に来こない?」
「う~ん、魔法の気配がするね、彩音ちゃん」
「そうですね、優愛(ゆあ)お姉ちゃん。調べてみる必要がありそうです」
「そんで約束すっぽかされたんかいな。ひどいやっちゃな、ジャスティスさんも」
「ううん。そんなことないよ、亜子。大事な用があったんだもの。仕方ないよ」
「でもなーウチやったら許さへんで」
タオルで身体を拭いているまき絵ちゃん。話を聞いた亜子ちゃんがご立腹。当然だよね。ちなみに僕は亜子ちゃんにタオルで濡れた身体を拭いてもらっている。
「ジャスティスさんには後日抗議するとして。それにしても、ごっつい雨やなぁ」
外は大雨。天気予報は大ハズレだ。
「ひっくしゅん」
「ありゃりゃ、まき絵身体をあっためてきた方がええんとちがう? 風邪引いてまうで。ほら、この猫ちゃんもずぶ濡れやし」
「そうだね。ちょっとシャワーでも浴びよっか」
え?
「にゃにゃみゃー」
それはひょっとして、もしかしなくても……あとずさり。
「あ~、やっぱり猫はオフロが嫌なんかなぁ」
「ダメだよ、猫ちゃん。ほら、私と一緒にカラダ洗おう♪」
「みゃみゃー!?」
それはマズイってまき絵ちゃん!
「あ、こら、逃がさないよ~。亜子、捕まえるの手伝って!」
「了解や~」
結局あっけなく捕まってしまった僕は、そのまままき絵ちゃんと亜子ちゃんにシャワー室まで連行されて、そして……
「これで準備万端~♪」
マズイ、マズイよまき絵ちゃん。何にも着ていないまき絵ちゃん。はぁ~、綺麗な肌だなぁ~。新体操で鍛えたれているだけあって、なかなか肉付きもよくって。胸は小ぶりだけど、女の子っぽい曲線を描いた身体で……
って、チガウチガウ! これじゃあ僕、チカンと一緒だよー!
「んじゃあ、身体のお洗濯、はじめちゃおー!」
「おー!」
亜子ちゃんまで。
はうぅぅ。僕、鼻血出てないよね。でも、なんだかイケナイところが硬くなっちゃっているような……
シャカシャカ、シャカシャカ。
「きゃはは~♪」
「ひゃはは~♪」
女の子2人で楽しそうに洗いっこしているよ~。もう目の保養……じゃなくて毒だよ~。
「じゃあ、今度は君の番だよ、猫ちゃん♪」
「2人で洗ったるで~♪」
2人の泡だらけの手が僕の身体を刺激します。ああ、なんだか気持ちいい……
「にゃあ~♪」
「へへ、気持ち良さそうだね」
「せやな~」
「優愛お姉ちゃん、女子寮の方から気配がします」
「そうだねぇ。またA組の人が何かしているのかな?」
シャカシャカシャカ、シャカシャカシャカ。
もう僕は気持ちよくって眠っちゃいそう……。大好きな人にこうして身体を洗ってもらえるなんて幸せ。し、しかも彼女は一糸まとわぬ生まれたままの姿。そのお友達まで。僕はもう……ちょっぴり、ううんかなり自己嫌悪……
ぼわん。
ん? なに? 今、ヘンな効果音しなかった?
ふとまぶたをかすかに開くと、呆気にとられてポカンとしているまき絵ちゃんと亜子ちゃん。
「え?」
なが~い沈黙。30秒ほどくらい静かだった。沈黙が破られるときこそ、修羅の時間の到来。
「「き、キャアアアア嗚呼嗚呼あああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」
「優愛お姉ちゃん!?」
「大変、事件なの!」
「あ~あ、薬の効き目、もう切れちゃったんだ。コレからが面白いところなのに。いや、これでも十分面白いかな♪」
「ゴメン、本当にゴメン!」
僕は深々と頭を下げる。僕の身体は傷やアザだらけ。混乱したまき絵ちゃんと亜子ちゃんに猛攻撃をもらってしまったからだ。
でも、それは仕方がない。ワザとでは、決してワザとじゃないけど、2人のマルハダカを見てしまったのだから……言い訳のしようがない。
「ううん、もういいよ。ワザとじゃなかったんでしょ?」
「まき絵?」
「しょうがないよ、亜子。優愛ちゃんと彩音ちゃんの話じゃ、事故だったっていうんだもん」
「せやけどな~」
煮え切らない様子の亜子ちゃん。顔が赤いのは湯上りであるというだけの理由じゃないはずだ。もちろん、まき絵ちゃんの方も同じくまだ赤い。
「ゴメン、まき絵ちゃん。どんな形であれ、キミにいやな思いをさせちゃって。約束すっぽかして雨の中待たせてしまった上に、今度は……」
「おっと、蒸し返すのはもうよした方がいいですよ」
僕の言葉を優愛ちゃんが遮った。
「そうですね。あんまりこういうこと言うのを繰り返されると、思い出しちゃってかえってますます恥ずかしくなっちゃいます」
彩音ちゃんが相槌を打つ。
「……ほんと、ゴメン」
「もういいよ、ジャスティスさん」
優しいまき絵ちゃんの声。
「見られちゃったのは、恥ずかしかったけど。でも、ジャスティスさんになら……いいよ」
「え、ええっ!?」
「おいおい……」
面食らう僕と亜子ちゃん。
「い、今はまだ中学生だし、胸も小さいけど。でも、あと何年かしたら、きっともっと成長して、セクシーになってジャスティスさんをメロメロにしてあげるから、だから……」
「ま、まき絵ちゃん……。ううん、いいんだよ、君はそのままで。今のままのまき絵ちゃんが大好きなんだ!」
「ジャスティスさん……」
見つめ合う2人。
「あ~、オホン」
「「うひゃ!?」」
「私達がいることをお忘れなく」
優愛ちゃんと彩音ちゃんに注意されちゃった。亜子ちゃんもいるのに、またラブラブモードに入ってしまった。反省、反省っと。
「それにしても、一体犯人はどこにいっちゃったのかな?」
「どうやら、バレンタインデーのときの騒動と手口が似ているようですが、まったく何者なんでしょう?」
優愛ちゃんと彩音ちゃんはご立腹だけど、僕はこの犯人にちょっと感謝している。だって、もっとまき絵ちゃんと仲良くなれたんだもの。もちろん、今後こんなことはもうゴメンだけど。今回の件は、優愛ちゃんと彩音ちゃんが内密に処理してくれるみたいだ。
「まき絵ちゃん。大好き」
「ジャスティスさん、ダイスキ♪」
「ふい~、なんだかアツアツだね~。まあ、いっか。仲がよくて何よりだよ♪」
その少女アルテアは、指を弾いて「ぼわん」と出したほうきに跨って、大空へと飛び去っていった。
解説
この作品は、4月7日のジャスティスさんの誕生日記念に作成しました。この話を彼にお贈りします。
ちなみにあえてどんな猫になったのかは描いておりません。ご想像にお任せします。それでは~♪
























































































































































































































































































